変化した日本の住宅政策と工務店

ジャーナリズムを含むほとんどの国民は、住宅政策転換の意味の重大性を理解していません。「官から民へ」という行政改革の共通標語のもとに、新たな住宅政策が発足されましたが、それが「住生活基本法」です。

住生活基本法は、2006年に、住宅建設計画法にとってかわる住宅政策の基本法として制定されました。それまでの公営・公団・公庫住宅という住宅建設費を提供する財政金融能力を失ったことから、住生活基本法は、民間金融機関による住宅ローン債権を証券化(MBS)して資金調達する方式を背景として、民間主導による住宅産業政策にすることを明らかにしています。

これまでの住宅政策が失敗した理由は、住宅購入者の適正な返済能力が年収の2.5倍程度であるにもかかわらず、年収の5~8倍もの過大な住宅ローンを行ったことにあります。 住宅業界では、自動車業界のような輸出業界と違って、生産性の向上努力はうとんじられてきました。不況が続き、消費者の購買力が下がって、住宅建設業者が住宅価格競争を余儀なくされると、下請業者に不当な見積りで価格切り下げを強いてきました。そのことが大量の欠陥住宅を生む背景となっています。
しかし、住宅ローンの適正な値が年収の2.5倍となると年収500万の人は、1250万の家しかかえないことになります。そこに、土地の価格がプラスされることを考えると、多くの国民は現在の住宅価格のままでは、家を買うことができなくなるのではないでしょうか。

今何が重要か―工務店の強みが活きる時代―

日本の住宅産業は、広告、チラシ、立て看板などの営業用小道具を使って集客することにエネルギーを費やしています。有能な営業マンを雇うことや、受注契約にこぎつける営業技術の研修や、コンサルタントに対して、多大な費用をかけています。これらの営業宣伝に使用される費用は、効果がなければ完全にマイナスの出費です。しかし、営業宣伝費を使わなければ集客できないといって、この費用がもっとも優先的に支出され、それはますます拡大する傾向にあります。住生活基本法時代になって、事実上無政府状態に投げ出された住宅産業界では、目先の集客のためますますその傾向が強まっています。

しかし、米国の住宅産業は、「いかに営業宣伝費をかけずに、力を蓄えることができるか?」ということを産業全体として考えて、実践しています。「多様化したサブマーケットのうちの、どのニーズに応えるか?」を考えてターゲットを絞り、それぞれが専門分野に特化することで、対象需要者に高い満足を与え、その評判に乗って事業を拡大しています。

これは、よく考えてみると日本の工務店が大手のハウスビルダーに対抗するために、生き抜くためにやっていた手法ではないでしょうか。新しい住宅政策によってこれから工務店は今まで通りの強みを活かすことで伸びてくる時代かもしれません。